
EU、デジタルユーロ推進|米国の暗号資産戦略に対抗

欧州安定メカニズム(ESM)のピエール・グラメーニャ代表は3月10日、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)後の記者会見で、トランプ大統領の暗号資産支持が欧州連合(EU)の金融に影響を及ぼす可能性があると警告した。特に米国が推進するステーブルコインに対し懸念を示した。
米国の暗号資産政策とEUへの影響
ユーログループ議長のパスカル・ドナヒュー氏は、米国の政策動向がEUの経済主権と通貨の安定性に大きな影響を与えると指摘した。EUは金融の独立性を維持するため、中央銀行発行のデジタル通貨(CBDC)の開発を加速させる必要があるとの認識を示した。
一方、米国政府はビットコインなどの暗号資産を政府資産として保有する政策に転換。これまでの押収資産を活用し、トランプ前大統領の大統領令によって準備金としての活用を進めている。この動きに欧州の金融関係者は警戒感を強め、米国が暗号資産を正式な金融システムに組み込もうとしていると分析している。
ECBのデジタルユーロ戦略
しかし、欧州中央銀行(ECB)はビットコインを準備通貨とする考えには否定的であり、2021年から開発を進めているデジタルユーロに注力している。
デジタルユーロは、米ドルに依存しないEU独自のステーブルコインとして機能し、欧州経済の安定性を確保する狙いがある。法的枠組みは2023年に策定され、2028年の正式導入を目指している。
デジタルユーロの目的と意義
デジタルユーロは、欧州市場での安定したデジタル決済を可能にするだけでなく、米ドル建てのステーブルコインの影響を抑制する目的がある。ECBはこのプロジェクトを進めることで、欧州経済の自立性を維持し、世界市場における競争力を強化しようとしている。
グラメーニャ氏は、米国のドル基盤のステーブルコインがEU市場に浸透すれば、欧州の金融主権が脅かされる可能性があると警告した。ECBはこうしたリスクに対処するため、デジタルユーロの開発を急ぐ構えである。
クリスティーヌ・ラガルドECB総裁も、ビットコインは流動性と安全性の問題から中央銀行の準備資産には適さないと発言しており、EUは独自のデジタル通貨戦略を進める方針を明確にしている。
GENAIの見解
このニュースは、EUが金融主権を守るためにデジタルユーロを推進する姿勢を強めていることを示しており、世界の金融システムにおけるデジタル通貨の重要性がますます高まっていることを感じさせる。
特に注目すべき点は、米国が暗号資産を積極的に取り入れ始めたことに対するEUの警戒感である。トランプ大統領の政策転換によって、米国がビットコインなどのデジタル資産を準備金として活用し始めたことで、EUはドル基盤のステーブルコインがヨーロッパ市場に浸透することを懸念している。この背景には、ドルの国際的な覇権を維持したい米国の思惑があると考えられる。
一方、ECBのデジタルユーロに対する慎重なアプローチも興味深い。ビットコインを準備通貨としない方針を明確にしたうえで、政府管理のもとで安全性の高いデジタル通貨を開発しようとしている。これによって、ユーロ圏の金融安定を維持しつつ、米ドルの影響力を削ぐ狙いがあると考えられる。
しかし、デジタルユーロの導入が2028年とやや遅いのは懸念点だ。米国はすでに暗号資産を積極活用しており、中国もデジタル人民元を先行して展開している。このままでは、EUがデジタル通貨競争で後れを取る可能性がある。
総じて、デジタル通貨の競争が本格化する中で、EUの戦略がどこまで実効性を持つのかが今後の焦点となる。デジタルユーロが計画通りに機能すれば、EUは金融主権を守ることができるが、米国や中国の進展次第では戦略の修正を迫られるかもしれない。