
PayPalが自社ステーブルコイン「PYUSD」に年利3.7%の利回りを提供へ

決済大手PayPalが、同社の発行する米ドル連動型ステーブルコイン「PayPal USD(PYUSD)」に対して年利3.7%の利回りを付与するプログラムを2024年夏にも開始する予定であると、ブルームバーグが4月23日に報じた。
報道によれば、PayPalはこの取り組みによってPYUSDの利用促進を図るとしており、ユーザーには利回りが毎日加算され、月ごとにPYUSD建てで報酬が支払われる仕組みが導入される予定である。
ステーブルコインの普及を加速させる狙い
PYUSDは、2023年8月にPaxos Trust CompanyによってPayPalの委託のもと発行され、同年9月にはVenmo上での利用も開始された。発行当時、PayPalは主要なグローバル決済ネットワークとして初めて自社ステーブルコインを導入した企業となった。
ステーブルコインの時価総額は一時10億ドルに到達したが、執筆時点では約8億7,330万ドルまで縮小している。PayPalは、利回り付与によってPYUSDの保有インセンティブを高め、より多くのユーザーに日常決済や送金手段として活用してもらうことを目指している。
規制上の課題:利回り付きステーブルコインは証券か?
この新たな報酬制度について、暗号資産投資企業SyndikaのCEOツァヒ・カンザ氏は、利回りを提供することで証券としての分類リスクが生じる可能性があると指摘している。通常、利回りを提供しないステーブルコインは証券と見なされないが、報酬付きの場合は分類が曖昧になる可能性があるという。
「PayPalはユーザーに対して約束した報酬を確実に支払えると見られるが、最大のリスクは金利ではなく、米ドルとのペッグ(連動)が外れることである」と同氏は述べた。
ブロックチェーン戦略を強化するPayPal
PayPalは近年、ブロックチェーン関連の取り組みを拡大しており、2024年4月にはChainlink(LINK)やSolana(SOL)などの暗号資産取引サービスを提供し始めた。Polygon LabsのCEOマーク・ボイロン氏も、「StripeやPayPalのような企業の統合が、ステーブルコイン業界の急成長の主因である」と評価している。
現在の市場では、最大のステーブルコインであるTether(USDT)の時価総額は1,453億ドルに達しており、PYUSDとの差は依然として大きい。カンザ氏は、「テザーは利回りや透明性ではなく、市場支配力によって支持を得ている」と述べたうえで、「PayPalが競争力を高めるには、コンプライアンス・透明性・リターンの3点を強化する戦略が有効である」と提言している。
GENAIの見解

これまでステーブルコインは、主に「ボラティリティのない決済手段」としての機能に留まってきました。ユーザーは取引や保有時に利回りが得られないため、あくまで一時的な資金退避先、あるいは取引所間の橋渡しとして活用してきた背景があります。
そこに利回りという金融的インセンティブを付与することは、ステーブルコインの“資産化”という新しい段階に入ることを意味します。
また、PYUSDがPayPalという世界規模の決済プラットフォームと直結している点も重要です。これは単なるDeFi的な利回り提供ではなく、リアルな商取引や給与・報酬支払いなどへの統合が現実的に進む可能性を秘めており、金融と決済の垣根を超える“Web2.5的”ユースケースへの橋渡しともいえます。
一方で、利回り付きステーブルコインの証券性問題は非常に重要な論点です。米国証券法では、利回り(リターン)を提供する商品が「他者の努力により収益を期待する投資」と見なされる場合、証券に該当する可能性があるとされます。これはSECや各州の金融当局との関係において大きなリスク要因となり得ます。
したがって、PayPalがこの制度をローンチするにあたっては、Paxos(発行主体)やNew York州金融サービス局(NYDFS)との事前調整が極めて重要であり、どのような設計で「証券ではない」と説明できるのかが注目されます。
結論として、今回のPYUSD利回り提供は、ステーブルコインの位置づけを「消費通貨」から「利回り付きデジタル資産」へと進化させる実験的かつ先進的な試みであり、競合であるUSDTやUSDCとの差別化戦略としても非常に有効です。
今後、このモデルが成功すれば、他の大手プラットフォームによる類似戦略が相次ぐことも予想され、ステーブルコイン市場の競争環境に大きな影響を及ぼす可能性があります。規制面とのバランスをどのように取るかが、最大のカギとなるでしょう。